第1回 優勝
石井 詩織
農家コンサルタント SOLFARM

記念すべき第1回 HarePi で優勝し、初代チャンピオンに輝いた石井詩織さん。救命救急センターの看護師から、ご主人とともに脱サラして農家に。いまは「最短マネタイズの専門家」として、SNSマーケティングや起業のサポートに取り組んでいます。
「何屋さんってよく言われます」と笑うしおりさんに、多彩な活動の根っこにある価値観や、HarePi に出場して感じたことを伺いました。
看護師から、脱サラ農家へ
まずは自己紹介をお願いします。
看護師からの“脱サラ農家”として HarePi に出させていただきました。主人も私も看護師だったんですが、第二子を出産して3か月のときに、主人が「農家になりたい」と言い出して。「やりたいならやったら?」みたいなノリで、二人とも看護師を辞めました。いまは二人とも個人事業主をしている、ちょっとおバカちゃんな二人です(笑)。
普段はどんなお仕事・活動をされていますか?
農家といっても、私が畑に出るのは月に1回あるかないかくらいで(笑)。農家としては、商品を販売する営業や販路拡大、Web戦略を担当しています。町の飲食店さんとのコラボアイテムづくりや、医療的ケア児の子たちと畑でのイベントを開いたりもしてきました。その実績から、いまは SNSマーケターとしてのコンサルティングが私の主軸になっています。
ほかにも、主人と一緒に地域活性化のための観光事業を立ち上げようとしていて、市や町おこしの団体の方たちと一緒に動いているところです。
看護師としては16年ほど勤務していて、そのうち10年くらいはドクターヘリも来る救命救急センターにいました。その経験を活かして、いまはボランティアで保育園や小学校の小児救命講習の講師もしています。
主にどんな方のサポートをされているんですか?
個人で起業したい方への、いわゆる「ゼロイチ」のサポートが中心です。農家さんに対しては、Web販売などの新規開拓のお手伝いをしています。
「条件」ではなく「やりたい」で選ぶ
ご主人が農家を始めると決めたとき、「やりたいならやったらいい」と背中を押せたのはなぜですか?
実は、農家に対する思いは本当になかったんです。主人が33歳くらいのときに「起業したい」と言って。残り35年、この人は文句を言いながら仕事をするのかな、そのそばにいるのは嫌だなと思ったんですよね。
安定した仕事を続けてもらうほうが家族のためにはなるかもしれない。でも、「やりたくない」「大変」という気持ちを慰めながら「家族のために働いてよ」と言い続けるのは嫌だし、私もそれはやりたくなかった。だから「やりたかったらやったらいいじゃん、いつでも戻れるし」と。
いまとなっては、農業ってこんなに素晴らしいんだ、これを広めたい、という思いもあります。でも一番最初は、まったくなかったです。
私自身、第一子を出産したあとも夜勤をしたい、フルタイムで働きたいと伝えて、そういう生活をしていました。でも第二子のあとはそれが難しくなりそうで、やりたい仕事なのに、その働き方では働きたくない、という思いもあって。条件で選ぶより、やりたいと思ったらやってみて、違ったらまた変えればいい。そういう価値観が、うちの親にもあったんだと思います。
何でもできてしまう印象のしおりさん。実は苦手なことってありますか?
一番「えっ」となるところでいうと、九九が言えません(笑)。ABCも最後まで言えないし、Webマーケターと言いながら Excel も使えない。パソコンは3本指で打っています。
事務作業や細かなサポートは主人がしてくれていて、そこがないと私は成り立たないんです。戦略を立てたり、大枠の路線、レールを引いたりするのはめちゃくちゃ得意なんですけど、実際に手を動かすのはそんなに得意じゃなくて。
コンサルティングでも同じで、最終ビジョンから続く道を描いて全部整えて、「じゃあ一段目はここだね」と示すところまでが私の役割。実際に動くのはご本人です。
感情が動く「構成」をデザインする
お客様からは、どんな相談が多いですか?
いまは SNS が中心なので、発信の軸となるコンセプトやコンテンツについての相談が多いです。あとは「なんて伝えたらいいか分からない」というもの。抽象的な言葉だとぼんやりするし、具体的だと具体的すぎる。この具体と抽象を行き来するのが難しい、というご相談はよく受けます。
私はもともと看護師なので、顧客心理の視点から心理的なハードルポイントを数か所置いたうえで、ストーリー性のある話し方や言語化をお手伝いすることが多いですね。
それこそプレゼンにも構成があって、つかみ(フック)の部分、具体、そこから抽象、そして自分ごと化、最後のオチ、という流れの中に感情の起伏を置いていく。ここで感情のフックがかからなかったら、次のフックはどこに置くか。そうやって組み立てていくんです。
生徒さんとは、どうやって「感情の動き」を練習するのですか?
模擬プレゼンをめちゃくちゃします。急に私が喋り出すんです(笑)。
「こういう説明をすると、こういう反応が返ってくるよね。そこにこのフックをかけると、感情がぐるっと変わるよね」と想像してもらって、相手が「えっ」となるのか「うんうん」となるのか、その表情を取りに行く。ここのデザインができたら次のステップに進もう、という感じです。
「こんな反応が来たらどうしよう」と不安に飲まれている生徒さんには、その反応が来てもいいんだよ、と伝えます。避けるんじゃなくて、むしろその状況を先に作ってしまう。そこに逆転の展開を置けば、思い描いた通りに話が進むじゃないですか。そこをあえて怖がらずに作るんです。
しおりさんならではの強みはどこにあると思いますか?
構成の説明が圧倒的に上手だとよく言われます。この人はなぜ売れているのか、この投稿はなぜヒットしたのか、似た投稿なのにどの一文でアンチコメントが増えたのか。そういうところを説明すると「本当にそこだよね」と言ってもらえます。女性と男性で説明の仕方を変えたりもしますね。
私はどちらかというと感覚より思考型、説明型のタイプ。もともとの素質もあると思いますが、大きいのは救命救急センターでの経験です。年間4万人ほどが来院する救急センターで、生まれたばかりの赤ちゃんから100歳を超える方、日本語を話せない海外からの渡航者の方、宗教上の配慮が必要な方、さまざまな経済状況の方……本当に多種多様な方と接してきました。
救急で来られるときって、事前準備ができていないから、その人の繕えない本心が出るんですよね。そういう場面で、15〜20分のうちにコミュニケーションを取り続けてきた。だから「人間的データ量」みたいなものがめちゃくちゃあるんです。威圧的な男性にはこう、優柔不断な方にはこう、という伝え方のデータがある。ここは後天的に得た強みだと思っています。
社会にいいことを、自走するビジネスに
これからお仕事を通して、どんな未来をつくっていきたいですか?
いまは SNS 上で個人の方向けにお仕事をしていて、これからも個人の方と夢を叶えていきたいと思っています。そのうえで、企業さんや、社会的な価値が高い活動にも関わっていきたいんです。
自分たちだけでなく、周りの方たちにとっても良いことが起こる事業って、ボランティアや NPO のように利益を求めない形が多いと感じています。でも利益を求めないことで継続が難しくなり、とてもいい事業なのに途中で途絶えてしまう。私はそれも社会問題だと思っていて。
大きな企業じゃなくても、社会的な活動にビジネスとして参入し、自走できる。そのレールづくりをしていきたいんです。まずは自分から、ということで、個人事業主として観光事業を立ち上げたり、生徒さんと一緒に医療的ケア児のための福祉用具を行政と開発したりしています。行政や町を巻き込む大きな事業をやっていきたいですね。目指しているのは、循環型社会です。
HarePi に出場して
HarePi への登壇を引き受けてくださった理由を教えてください。
出来事は必然というか。ちょうど観光事業の立ち上げにあたって、ビジネスコンテストへの登壇を検討している段階だったんです。
でも、仕事柄プレゼンなんてしたことがなかったし、話すのは好きでもプレゼンとなると緊張する。私にとってビジネスコンテストはハードルが高かったんですよね。だから、一度こういう場でやってみて現在地を確認したり、こんな話し方があるんだと見てみたりするのは、すごく勉強になるしチャンスだなと思って。
観客の皆さんの前でマイクを握って話す機会なんて、そうそうないじゃないですか。それをやらせてもらえるなんて、「はいはい、行きます」という感じでした。
初開催の HarePi に参加してみて、率直な感想はいかがですか?
最初は何をやるんだろう?と思っていたんですが、事前に Zoom での練習会を開いていただいたので、なんとなく雰囲気がつかめました。そこで顔合わせもしていたので、当日も「緊張しますね」と声をかけ合えたりして、和気あいあいとできたのは本当にありがたかったです。
アットホームな雰囲気なのに、構成や形はきちんとしている。その安心感がありました。1回目として、すごく大成功だったんじゃないかなと思います。……どの目線で?って感じですけど(笑)。本当に喋りやすかったですし、観客の皆さんも温かくて。運営の若い3人がすごいなと思いました。
ほかの登壇者の発表で、印象に残っていることはありますか?
今回6人で登壇しましたが、6人が6人とも互いにリスペクトがあったんです。相手の意見に対して「いやいや、そうじゃなくて」という言い回しがなくて。
「こういう意見もあると思うんですけど、僕はこっちで、ここにはこういう良さがあって」というように、共感の姿勢を持ちながら反対の意見も言う。そして、どちらを選んでもいいというフラットな姿勢がみんなにありました。事前のルールもあると思いますが、場づくりから生まれたものだなと思って、いい空間だったなと思います。
ぶっちゃけ、優勝すると思っていましたか?
優勝しようと思ってました(笑)。初代なら、それは初代はいただいておかないと。いただけるものはいただきます、みたいな。
一歩を踏み出したい人へ
これから HarePi に参加する方へ、初代チャンピオンからメッセージをお願いします。
HarePi に出て、自分の意見を実際に言葉にしてみて、皆さんに承認してもらう。点数はもちろんつくんですけど、それは決して否定的な点数じゃないし、0%の人はいないんです。
地元で、安心できる場で、自分のやってみたいことをとりあえず言ってみる。思っていることを言葉に出してみる。その挑戦は、やりたいことがある人の第一歩だと思います。私自身もその第一歩として出させてもらいました。だから、「とりあえずいいや」くらいの気持ちで、ポチッと応募してもらえたら嬉しいです。
最後に、こんなことでも頼ってほしい、ということがあれば教えてください。
コンサルティングを受けるには、やりたいことが明確じゃないといけない、自信を持って行動しなきゃいけない、とよく言われますよね。もちろん自信も行動も大切です。でも、起業のタイミングからサポートしていると、自信ってあるようでないのが最初だと思うんです。
今回のプレゼンバトルでも、自信があってチャンピオンになれると思っていたわけじゃなくて、「なりたい、なる」と覚悟を決めつつも「できるかな?」と思っていました。本番のビジコンが怖いから、先にマイクを握ろう、だったんです。だから私は、自信がなくてもむしろいいと思っています。
やりたいことはあるけど、まだ具体的になっていない。どうやっていいか分からない。人に相談するレベルにない。そんな状態でも、全然相談に来てもらえたらと思います。大枠をつくったり、どう伝えれば人に伝わりやすいかを一緒に考えたりするのは、私がサポートできることなので。
一生懸命火を守っていても、台風が来たり風が吹いたりして消えてしまうこともある。守っていると視野も狭くなりますしね。でも、火が消えちゃっても、私が火を持っているので大丈夫。火は何回でもつけられます。生徒さんにもよく「後ろにいるから、思いっきり進んだらいいよ。回収するから」と言っているんです。